リーダーシップを発揮する社員の具体的な行動8選
コンプライアンスとは?
コンプライアンスとは「法令遵守」を指す言葉です。言葉にすれば簡単ですが、実際には組織や企業にとっての「コンプライアンス」には法令遵守だけではない多種多様な意味が含まれています。
例えば企業として法律を守ることはもちろん、組織内の倫理観・道徳・公序良俗など、社会的な規範に沿った経営を目指す意味も含まれるのです。
企業の経営を左右する「法律」はじつに幅広く、会社法・個人情報保護法・景品表示法・独占禁止法・消費者保護法・労働基準法・男女雇用均等法…など、分野ごとにさまざまなルールが定められています。
例えば株主・取引先・関連企業・経営者・社員・顧客などのステークホルダーに会社の経営状況を報告する財務会計なども、コンプライアンスとして義務付けられているのです。
コンプライアンスは時代によって求められるものが変化していくため、対象範囲が一定ではありません。特に最近はSNSやIT技術の発展で情報化が進む一方、個人情報や機密情報などの漏洩が問題になり、コンプライアンス対策を見直す企業も少なくないといえます。
直近ではパワハラ防止法の施策により、社内のパワハラ防止も事業主の義務となり、コンプライアンスの一部となりました。もしパワハラ、セクハラ、モラハラなどが発生した場合、企業にとっては信用問題に直結してしまうでしょう。一度失った社会的な信用を回復させるには膨大なコストと時間を要さなければなりません。
場合によってはコンプライアンス違反により事業からの撤退、倒産に繋がってしまう可能性もあるのです。
そうしたリスクを最小限に抑えるために、企業はコンプライアンスを重視した独自の規則やルールを設けています。それほどまでに会社経営におけるコンプライアンスは重要な要素の一つなのです。
コーポレートガバナンスとの違い
コンプライアンスと類似する言葉で「コーポレートガバナンス」という用語があります。似通っている用語ですが、厳密には意味が異なるため注意が必要です。
コーポレートガバナンスは取締役会などが組織の経営者を管轄するための仕組みを指し、日本語では「企業統治」と訳されることが多いです。ガバナンスは「管理・統治しまとめる」という意味を持っています。それぞれの違いは視点と対象です。
コンプライアンスは経営者が会社全体・社員に対して持つ概念であり、コーポレートガバナンスは取締役会などが経営者に対して持つ概念という違いがあります。
・コンプライアンス:組織として法律や規則を守っていくこと
・コーポレートガバナンス:経営者が法律や規則を守っているか管理する体制や仕組み
管轄する側・管轄される側の違いはありますが、どちらの概念も企業に関係する人々(顧客・取引先・株主・社員など)の利益を保護しながら、双方にとってより良い企業を目指していくために存在しているものです。
コンプライアンスの重要性・意義
なぜ企業や組織に「コンプライアンス」が必要であり、重要なのでしょうか。コンプライアンスは組織の倫理観や道徳・社会的規範に従うための指標であると同時に、社内の不正を防ぎ治安を守っていくためにも重要な役割を担っています。
もしコンプライアンスを軽視する企業であった場合、パワハラや労働基準法の違反・粉飾決算・横領などの不祥事が横行するかもしれません。また、そうした情報がマスメディアを通じて報道され、社会的な評価はどんどん低下していく可能性もあるでしょう。
コンプライアンス対策を行っていない企業であると知られれば、あらゆるリスクに対して体制が整っていない企業だと認識されます。
そうしたイメージを持たれてしまうと、取引先・投資家・従業員・消費者などから敬遠され、企業として存続できなくなる可能性も高くなるのです。
さらに粉飾や不正・横領などが発覚しても対策に取り組まない企業では、従業員の責任感や士気も低下し、優秀な人材は次々と離れていくでしょう。
組織単位の話ではイメージしづらいかもしれませんが、コンプライアンス対策を行っていない企業は、いわば法律が整備されていない国と同じです。犯罪が横行しており、警察や政府が機能しておらず、改善する傾向もない。そのような国では国民はもちろん、海外からの信頼や支援を受けることも困難でしょう。
コンプライアンスはこうしたリスクを回避・予防するために存在し、もし問題が発生したときにも、迅速に対応できる体制を整えるという重要な役割を担っているのです。
コンプライアンスが注目された背景
現代では企業がコンプライアンスを厳守することは常識となっていますが、コンプライアンスが注目されるようになった背景には、時代の流れと法改正が深く関係しています。ここからは、コンプライアンスが注目されるようになった理由を解説していきましょう。
1970年代
コンプライアンスが注目されるようになった背景を遡っていくと、1970年代に行われた日米貿易摩擦に辿り着きます。高度経済成長期の日本政府が国内企業を保護するためにさまざまな規制を行った結果、日本の経済は大きな発展を実現しました。
しかし、過剰に行われた規制はアメリカとの貿易において、日本ばかりが利益を得られる状態になってしまったのです。そこでアメリカ政府は日本政府に対して、各種規制を撤廃して他国も日本と同条件で競争ができる環境を整えるよう、圧力をかけ始めました。
1980年代
1980年代では内需主導での経済発展を目指した日本政府は、電電公社・国鉄・専売公社の3公社を民営化し、アメリカ政府の要請に従い各種規制を撤廃。民間企業の参入により、経済競争を促してきました。国外企業も日本企業と同じ土俵で公正な競争ができる環境となったのです。しかし、自由に競争ができるようになったことで、各社が求められる責任も大きくなります。
1990年代
1990年代では政府が企業に対して情報公開を要請。自己責任による体制強化を指導しているさなかにバブル経済が崩壊します。一転して大不況に陥った日本企業では、不正融資や粉飾決算などによる不祥事が多発するようになりました。この頃には大手証券会社であった「山一証券」が倒産し、大企業でも倒産するという現実を各社に突きつけたのです。
2000年代
その後も度重なる不正や不祥事が続いた結果、行政方針の変更や法改正が行われ、2000年代半ばになる頃に企業の「コンプライアンス」が注目されるようになりました。
コンプライアンスリスク
コンプライアンスリスクとは、コンプライアンスを守らないことで発生するリスクのことです。コンプライアンスリスクには分野別にいくつかの種類があります。
労務リスク
労務リスクは従業員の労働に関する法律で生じるリスクのことです。
例えば下記のような事例が労務リスクに該当します。
・休日出勤・残業時間超過などによる労働基準法違反
・上司・部下の間で発生するハラスメント問題(パワハラ・セクハラ・モラハラなど)
・正規社員と非正規社員の差別的待遇
規定以上の時間外労働や正規・非正規による待遇差別は、働き方改革関連法で禁じられているため、違反すれば罰則や行政処分の対象になる恐れがあります。またパワハラ防止法の施策により、ハラスメント防止も企業の義務となりました。
契約リスク
ビジネスにおいて契約は回避できないものですが、内容が法律に抵触していて自社にとって不利益を被る内容が記載されており、損失に繋がってしまうものが契約リスクです。回避するためには契約前に法律を遵守できているか、詳細にチェックできる確認体制が重要になります。
情報漏洩リスク
個人情報や営業秘密情報など、外部に漏らしてはいけない重要な情報が口頭やネットなどにより漏洩してしまうリスクです。情報漏洩を防ぐためには、契約により秘密情報保持を締結し、関係者が家族やパートナーなど親しい間柄にも伝えないよう体制を整えることが大切です。
法令違反リスク
コンプライアンスが「法令遵守」なのですから、当然ですが法令違反にも気を付けなければなりません。企業にはさまざまな規制があるため、抵触していないか事前に注意深くチェックしておく必要があるでしょう。
違反事例
コンプライアンスの違反にはさまざまな事例がありますが、労働基準法違反・法令違反・不正経理・粉飾決算・機密情報の漏洩・インサイダー取引などが代表的です。こうした違反を行った結果、より甚大な損害を被った企業も少なくありません。以上のような背景を踏まえて、コンプライアンス違反を起こした事例を3つご紹介いたします。
山一証券の不正会計・粉飾決算
かつて大手証券会社として名を知られていた「山一証券」は、約2,600億円の簿外債務を隠した不正会計や粉飾決算により経営状態を隠蔽。最終的に経営破綻し、世間に大きな衝撃を与えた代表的な事例です。
参考:朝日新聞
居酒屋ワタミの労働基準法違反
大手居酒屋チェーン店のワタミは、過去に長時間の時間外労働・残業時間の書き換え・賃金の未払いなどさまざまな法令違反を起こしています。
具体的にはアルバイトの勤務時間を30分単位で計算し、四捨五入により端数を切り捨てて算出していました。こうした算出方法や残業代の未払いなどは労働基準法で禁じられており、コンプライアンスに大きく反した違反事例といえるでしょう。
旅行会社てるみくらぶの赤字隠蔽・粉飾決算
格安旅行会社として知られていたてるみくらぶは、約75億円の債務超過を隠蔽しながら破産申請の直前まで営業を続け、大きな注目を浴びる事件を起こしています。利用者は料金を支払い済みであるにも関わらず、旅行先のホテルに支払われていないなど、さまざまなトラブルが発生。
最終的には同社が破産したことで旅行先の利用客数万人が帰国できなくなるといった甚大な被害を及ぼした事件です。同社は提出先別に複数の決算書を用意するなど、周到な手段で赤字を隠蔽していました。
参考:てるみくらぶは禁断の「粉飾くらぶ」 逮捕2日前、「カネ返せ!」怒号飛び交った債権者集会
内部統制とコンプライアンス
内部統制とは目的や状況に応じて組織全体を整備し、円滑かつ健全な業務を行えるようにするための仕組みのことです。コンプライアンスは内部統制を行うための手段の一つであり、内部統制を実現するにはコンプライアンスの徹底が必要不可欠という相互関係にあります。
内部統制で整備することによる目的は基本的に下記の4つです。
・業務全体の効率性・有効性
・財務報告の信頼性
・組織運営における法令や規定の遵守
・会社資産の保全
また内部統制は独立した制度としてではなく、日常業務に組み込んで実施するものです。その手法がコンプライアンス対策であり、結果として内部統制に繋がっていきます。各部門間で不正が行われない体制を整えるなどの仕組みづくりは、全て内部統制の一部なのです。
そのため大手企業などではプロセスごとに異なる社員が確認作業を行い、不正やミスが発生しないようダブルチェック、トリプルチェックを行い、さらにITやAIツールによる検査まで行っています。
具体的な内部統制の方法は企業の状況や業態などによっても異なるため、一概にいうことはできません。しかし管轄できないブラックボックス化する業務工程があるのであれば、いつでも状況を確認できる体制づくりが必要といえるでしょう。
コンプライアンスと遵守するための取り組み・対応
会社経営におけるコンプライアンスの重要性をお伝えしましたが、問題はどのように自社でコンプライアンスを遵守させていくかです。ここから自社でコンプライアンスを浸透させていくための方法を2つご紹介いたします。
コンプライアンス遵守のためのマニュアル作成
基本中の基本となるのが、社内規則やコンプライアンス遵守に向けたマニュアルの作成と配布です。社内での機密情報の取り扱いから持ち出し、ハラスメント防止に向けた取り組みなど、必要な情報を全て記載しておくようにしましょう。
近年はSNSやブログなど、情報の発信や拡散が個人でもできてしまう時代です。安易に情報を漏らさないよう、細かな部分まで詳細に明記しておくことをおすすめします。
また法令違反に関することなど自社内だけでコンプライアンス遵守のマニュアルを作成するのが困難であれば、弁護士や専門家に相談するのも方法の一つです。
コンプライアンス遵守に向けた研修・セミナーの実施
コンプライアンス遵守に向けた勉強会や研修、セミナーを定期的に開催して啓蒙することも重要な対策の一つです。定期的に開催することで企業文化として浸透しやすくなり、社員の倫理観・モラル・道徳などにアプローチするきっかけにもなります。
必要に応じて弁護士や専門家に登壇してもらい、社員ひとり一人の理解度に合わせて指導を行うといいでしょう。また外部でもコンプライアンス研修やセミナーを実施している企業は数多くあるため、自社内で環境を整えるのが難しい場合は検討してみてはいかがでしょうか。