リーダーシップを発揮する社員の具体的な行動8選
そもそもコーチングとは
まずは、コーチングの定義について理解しておきましょう。
コーチングは研修を受ける対象者に質問したり、観察したりしながら相手の発言に耳を傾け、その内なる答えを導き出す目標達成の手法です。
基本的にコーチングをする人である「コーチ」と、コーチングを受ける人「クライアント」という構成で実施されます。
クライアントの自主・自立を目指し、コーチの指示に従うのではなく自分がどのように行動すれば目標達成が可能か、自分の頭で考えられるようにすることが、コーチングの目的です。
コーチは、クライアントに対して質問をして、クライアントの考えや意見を導き出す役割を担っているため、基本的には指導を行ったり具体的なアドバイスをしたりすることはありません。
指導やアドバイスをすると、クライアントがコーチの言葉に引っ張られて、どうしてもそちらの方向に進んでしまう傾向にあるためです。
コーチが問いかけて、クライアントの言葉を聞く作業を繰り返すことで、クライアントが自分の考えや目の前にある選択肢に自分で気づき、それに対して具体的にどのように取り組むかを考えることが可能となります。
これが、コーチングの基本的なスタイルです。
クライアント自らが目標を達成するために必要となるスキルや知識、考え方に気づき、それらを獲得するために具体的にどのような行動を取ればいいのかを考える一連の流れが、成果を出すためには大変有効です。
ビジネスにおいて、コーチングはクライアントが自主的に行動できるように、そのスキルや可能性を最大限に引き出し、目標を達成するためのモチベーションを高めることを目的として、研修などで実施されます。
ビジネスにおいては、上司がコーチ、部下がクライアントとなって進められます。これを「コーチング型マネジメント」と呼びます。
クライアントのポテンシャルが充分に発揮できる状況を整え、自己成長を促進させるために、大変有効な手段ですので、上手に取り入れていきましょう。
コーチングとティーチング
コーチングとよく混同される言葉に「ティーチング」があります。
ティーチングは、指導者がスキル習得のために必要な知識を教えることを意味し、「教える側」「教えられる側」というように、その間には上下関係が存在します。
また、一方向でのコミュニケーションとなりますから、コーチングのように双方向の対話は行われません。
つまり、コーチングとティーチングの違いは、
・ティーチングは上下関係、コーチングは並走する関係
・ティーチングは一方向コミュニケーション、コーチングは双方向コミュニケーション
となります。
コーチングの由来や歴史
コーチングは、ギリシャ神話の中でも「人を勇気づけ、励ます関わり方」として登場しています。
ギリシャ神話に、メンターと呼ばれる相談相手と対話しながら登場人物が成長していく描写があるのです。
当時から関係性を構築しながら、自らの気づきをもたらす関わり方が存在していたということが、この記述から分かります。
コーチングの「コーチ」という言葉は、1500年代に登場した言葉です。
ハンガリーにある馬車を作っていた町の名前に由来しており、語源は「馬車」で、「大切な人を、その本人が望むところまで送る」という意味でした。
そこから派生し、近年では「誰かの目標達成を支援すること」という意味で使用されるようになったのです。
1830年ごろには、オックスフォード大学で生徒たちをテストの合格基準まで指導する人である個別指導員を「コーチ」と呼ぶようになりました。
また、スポーツ界では、1860年ごろに「コーチ」という言葉が使われ始めました。
1950年代になると、当時のハーバード大学助教授マイルズ・メイス氏が『The Growth and Development』でマネジメントにおけるコーチングの重要性について説き、それ以降ビジネスシーンにおいてもコーチングが注目されるようになりました。
日本では、1997年にコーチングを体系的に学ぶプログラムのサービス提供がスタートし、企業のマネジメントにコーチングを活用する取り組みが活発に行われるようになりました。
現在では教育や医療、士業、専門職などさまざまな背景を持つ人がコーチングを学ぶようになり、さまざまな分野で活用されています。
このように、現代におけるコーチングは、心理学、ビジネス、スポーツなどさまざまなバックボーンを持ち、そこに20世紀後半の急激な社会経済の発展といった社会情勢を背景に定着していったことが分かります。
上下関係ではなく、フラットな関係で、褒めるのではなく相手の考えを認めるといった関わりを基本とするコーチングは、古くから人の成長を助ける考え方として注目されてきたのです。
コーチングのメリットとは
部下の行動変容を促すことができる
コーチングのメリットとして、まずクライアントである部下の行動を自発的に変えるというものがあります。
コーチングは、部下が主体的に考え、目標を達成するために自ら行動を起こすことが第一歩となります。そして、そのプロセスや結果を振り返りながら、改善点を自分で見つけ、修正していきます。
このサイクルを繰り返すことで、部下は自己成長し、結果として行動を変容させていくことにつながるのです。
ここで大切なのは、目標を達成できなかった場合にも落ち込むのではなく、なぜ達成できなかったのかを分析し、不足している知識やスキルを見直し、それを改善していくという点にあります。
失敗しても、そこから自分に不足している知識やスキルに気づき、それを強化して再チャレンジする姿勢を身につけることで、目標に対する取り組み方が変わるだけでなく、自信をつけることもできます。
結果的に、自主的に動けるようになり、好循環を手に入れることができるのです。
上司と部下の信頼関係構築に役立つ
コーチングを行うことで、上司と部下の関係を改善し、信頼し合える仲になれるというのも、大きなメリットです。
通常の業務においては、部下は上司からの指示に従う形で仕事を進めるのが一般的です。
しかし、コーチングの場においてはフラットな関係として向き合いますから、業務上では見えていなかった部下の成長や、考え方に上司が気づくチャンスがあります。
部下のパーソナルな部分を知ることで、対等に会話する機会が増え、関係性が好転する効果が期待できるのです。
また、部下も上司が認めてくれる、受け止めてくれることを嬉しく感じ、素直に話がしやすくなります。
こうして信頼関係が構築されると、部下は仕事に対するモチベーションを高く保つことができるようになり、結果として目標達成に意欲をもって取り組めるようになるのです。
社内コミュニケーションの活性化につながる
コーチングには、上司と部下という小さな括りだけではなく、組織としてのメリットもあります。
そのメリットとは、社内におけるコミュニケーションの活性化です。
一方向のコミュニケーションとは違い、双方向でコミュニケーションを図るコーチングでは、部下が上司に自分の考えを伝えたり、上司が部下の意見や考えに対して耳を傾ける習慣が根付きます。
そのような社風が整えば、自然と社内でのコミュニケーションが活性化し、組織全体の生産性をアップさせることが可能となるのです。
「風通しのよい企業」という言葉を耳にすることがあると思いますが、コーチング実施はまさに上司と部下が忌憚のない意見交換ができる風土を築くきっかけとなります。
コーチングのデメリットとは
コーチのスキルで期待できる効果が変わる
コーチングには、デメリットも存在します。そのため、デメリットに対して適切に対処することが重要です。
まず一つ目のデメリットとしては、コーチである上司のスキル次第でコーチングの効果が変わってしまうことが考えられます。
傾聴するにしても、上司の表情ひとつでクライアントである部下の気持ちは大きく変わってしまいます。
無表情で聞いていると「自分に興味がないかもしれない」「つまらないことで悩んでいると思っているのかも」と、部下の「積極的に話をしよう」という意欲が削がれてしまいます。
逆に、上司が熱心すぎると、部下の思いや考えを先取りしすぎてしまい、本人が自分で考えて出した結論であるという印象を薄めるリスクもあります。
上司は必要となるコーチングスキルを習得していることが、重要となるのです。
しっかりとした知識と技術を持つ上司がコーチングを実施すれば、高い効果が期待できるということを理解しておきましょう。
一度に大勢に対して実施できない
コーチとクライアント、マンツーマンで行うコーチングは、個別研修となりますから、集合研修のように一度にたくさんの対象者に実施することはできません。
しかし、マンツーマンだからこそ、得られるメリットが数多くあります。
一人ひとりのタイプや思考癖、置かれている状況、業務内容といった細かな情報まで把握し、その上で最適と考えられるアプローチを行うからこそ、高い効果が期待できるのです。
集合研修では得られにくいこの効果を得るためには、個別でのアプローチが必須となります。
もし、同じ方法や手順などを多くの人に教えることを目的としているなら、ティーチングのほうが適しています。
内容や目的によって、手法を検討することも効率よく研修を進めるコツと考えましょう。
効果が見えにくい
コーチングに取り組んでいても、なかなか効果が実感できないケースも多いと思います。
部下の自主性を養うことを目的としているコーチングでは、短い期間では行動変容が見えづらく、限定的になってしまう傾向があるのも事実です。
継続して取り組んで初めて「目標達成への道」が見えてくるものですから、時間をかけてじっくりと取り組みましょう。
スキルや能力を高めるために実施する研修とは、根本的に質が違うのです。
もし、短い期間での人材育成を目指しているなら、コーチングではない手法を選んだ方が効果が出る可能性があります。
コーチングに必須のスキルとは?
コーチングに必須なスキルと学習方法
傾聴
傾聴とは、相手の言葉としっかりと向き合い、深部まで理解することです。
相手の表情や話し方、姿勢まで注意を払い、それと同時にしっかりと言葉を聞いて相手のことを深く理解するコミュニケーション技法となっています。
傾聴には、相手のありのままの姿を丸ごと受け入れる「受容」、相手の話を聞いて、その通りであると思う「共感」の2つのスキルが必要です。
受容と共感が日頃から適切に行われている職場では、クライアントである部下が自分で自分の考え方を深めながら、自主的・積極的・建設的な意見を出すことが可能です。
ここで注意したいのが、コーチである上司がカウンセリングなどのように人の話を聞いたり、答えに繋がりやすい質問をしたりしてはいけないということです。
相手をそのまま、丸ごと理解することが、重要と考えましょう。
承認
コーチングにおいて、相手の良いところを見つけ、言葉や態度で相手に伝わるように褒めるスキルを「承認」といいます。
相手の良いところを見つけて褒めることが大変重要で、お世辞は避ける必要があります。
褒めるコツとしては、以下のポイントに注意しましょう。
・すぐに褒める
・具体的に褒める
・一貫性を持って褒める
すぐに褒めることで、相手に強く印象を残すことができますし、具体的に褒めれば、相手が何を期待されているかを理解し、行動に移しやすくなります。
また、一貫性を持って褒めることで「こういう行動が褒められる」という基準を部下に伝えることができます。
褒められると、人は「また褒められたい」と同じ行動を繰り返すようになり、行動を定着させる傾向があります。
行動が定着してきたら褒める頻度を減らし、しばらく時間を置いてからここぞというときに改めて褒めましょう。
このような取り組みを続けることで、褒め続けるよりも、より一層高い効果が期待できます。
質問
次に重要になるのが「質問」です。
人間は誰しも、人から指摘されることを好みません。
しかし、自分でミスに気づき、内省し、改善していくことに対しては、比較的抵抗がない傾向があります。
このポイントを踏まえた上で、コーチングに有効な質問の仕方について確認していきましょう。
1.オープンクエスチョン/クローズドクエスチョン
オープンクエスチョンは、質問を投げかけられた人が自分で言葉を選んで、自分で考えながら回答する必要がある質問方法です。
回答の自由度が高いため、回答者の真意が表れやすく、コーチングではこの質問方法が軸となります。
回答するまでに考える時間が必要となりますから、やりとりに時間を要する質問方法です。
一方で、クローズドクエスチョンは、質問する人があらかじめ回答を想定して準備する質問です。
「イエス」「ノー」で回答できるものであったり、複数の選択肢を用意してそこから答えを選んでもらう択一式であったりするのが、クローズドクエスチョンとなります。
回答しやすい質問方法ですが、回答者の真意が見えにくい傾向があります。
2.過去質問/未来質問
コーチングは将来望む姿を想像し、それを実現するために過去を分析していきます。
未来質問は、これから先の未来で起きることや、起こすことを質問します。
それに対して、過去質問は過去や現在について質問します。すでに起きていることについて聞いていく形の質問です。
3.肯定質問/否定質問
肯定質問は、これから作り出すことに焦点を当てた質問です。
否定質問は、今存在しないものや、脅威・抵抗に焦点を当てて行う質問となります。
4.掘り下げる質問/広げる質問
掘り下げる質問は、情報を具体化する質問となります。
「それは、どういうことですか?」というように質問を重ね、深めていくと、結果として一つのテーマについて掘り下げた回答を得ることができます。
また、広げる質問は「他には?」と質問を重ねて、他のアイデアや情報を引き出す方法も有効です。
コーチングに必要な資格は?
一般社団法人日本コーチ連盟「コーチング資格」
コーチングの普及と発展を目指す団体である一般社団法人日本コーチ連盟では、コーチング技能養成校であるコーチアカデミー運営や資格の発行、大学公開講座や検定試験などを実施しています。
一般社団法人日本コーチ連盟では、以下の資格を発行しています。
【コーチ資格】
コーチとして活動するための資格で、以下を発行しています。
・一種:一般社団法人日本コーチ連盟認定コーチ
論文試験と実技審査で技能の客観的な評価を行います。
・二種:一般社団法人日本コーチ連盟コーチング・ファシリテータ
学科試験と実技試験を実施し、コーチング資格の信頼性を高めます。
【インストラクター資格】
コーチング技能を教授するインストラクター資格として、テニュア・トラックと呼ばれるインストラクター養成プログラムに合格すると、以下の資格を取得できます。
・一般社団法人日本コーチ連盟公認アカデミーコーチ
テニュア・トラックを卒業し、こちらの資格を取得すると、コーチアカデミーの非常勤講師のほか、使用許諾権を獲得し外部団体での収益活動も可能となります。
・一般社団法人日本コーチ連盟公認マスターコーチ
コーチアカデミー専任講師となり、テニュア・トラップの指導も担当できるようになります。また、連盟幹部の一人として参画することになります。
一般財団法人生涯学習開発財団認定コーチ資格
一般財団法人生涯学習開発財団認定コーチ資格には、以下のものがあります。
・認定コーチ(初級レベル)
・認定プロフェッショナルコーチ(中級レベル)
・認定マスターコーチ(上級レベル)
コーチングスキルを活かし、仕事やマネジメントにおいて相手の主体性を導き出しつつ、その成長や目標達成を促すコーチング型マネージャーのための資格で、受験するためには実務経験が必須となります。
国際コーチ連盟(ICF)のコーチング資格
国際コーチ連盟(ICF)のコーチング資格は、世界最大規模のプロコーチ支援団体が実施する国際資格となっています。
国際コーチ連盟(ICF)コーチング資格は、海外でも通用する資格です。
発行している資格は、以下の通りです。
・アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)
・プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)
・マスター認定コーチ(MCC)
コーチング導入の成功事例
コーチングの結果、売上が大幅に向上!
ある企業では上司が自分から部下に声をかけ、コミュニケーションを増やすよう心がけた結果、部下からも気軽に話しかけてくれるような関係性が構築できたといいます。
その結果、さまざまなアイデアを出し合える雰囲気づくりに成功し、売り上げ拡大につながったそうです。
効果が見えにくいコーチングは、効果を実感するまでに少し時間は掛かりますが、しっかりと結果はついてくるということを証明するような成功事例です。
部下との関係改善を実現
部下の育成に難しさを感じ、悩んでいたあるケースでは、コーチングを学ぶことで部下との関係改善が実現できたといいます。
特に、傾聴を大切にしたところ、信頼関係を構築することができ、自分の考えを押し付けようとしていた自分に気づくことができたそうです。
周囲の人と自分は考え方の違う人間であるということを理解し、無意識のうちに人を思い通りにしようとしていた自分を反省することで、社内でのポジションが認められるようになった事例です。
部下自身が気づくことで業務上の壁を打開
急に業務内容が変更になり、仕事に対するモチベーションが下がってしまった部下に対してコーチングをしようと学び始めたケースでは、部下との関わり方を変えることで部下が抱えている問題を引き出し、改善できたといいます。
コーチングを行うことで、本人も、周囲も苦しい思いをしていたことに気づき、問題を部下自身が認めることで、行動がスピーディーになり、大きく躍進できたそうです。
上司自身の関わり方を見直し、部下の士気を高めることに成功
管理職であるものの、怒りっぽいところがあり、部下との信頼関係構築に悩んでいた上司が、コーチングを学んだ事例もあります。
感情的にならずに、率直に伝えることの大切さを知り、実践していくことで社内での評価だけでなく、メンバーの士気も高まり、社内全体におけるパフォーマンスを高めることができたそうです。
コーチングが機能しない場合に見直すべき点
コーチングに適さない内容をコーチングしていないか
コーチングの基本は「答えを教えない」という点にあります。
誰かから答えを与えられたり、指摘されたりするのではなく、自分の中から答えを見つけることが、コーチングの目的です。
そのため、目標が明確ではないケースや、目標達成に対する意欲が低かったり、そもそも本人に目標達成できるスキルがないケースは、コーチングに適している内容ではありません。
コーチングの効果があまり見られない場合は、指導方法が適しているかを見直し、必要に応じて対応を変えていく必要があると考えましょう。
急ぎの案件に使おうとしていないか
コーチングは、その効果を実感するまでに時間を要します。
緊急を要する課題にコーチングを用いても、効果が出るまでに時間が掛かりますから、それはコーチングには適していない内容ということになります。
コーチングする内容や、相手の目的、解決すべき課題をしっかりと把握し、その上で「このケースはコーチングが最適な指導方法か」を確認する必要があります。
対象者である部下がコーチングに向いているかどうか
コーチングは自分と向き合う作業となりますから、対象者によってはコーチングに適さないケースもあります。
また、対象者に自主性がないケースも、コーチングでの効果が薄くなってしまいます。
研修の一環としてコーチングを行う場合、どの部下に対しても同じように取り組みをスタートさせることになりますが、部下のタイプによってはコーチングが適さないケースもあることを理解しておきましょう。
そして、場合によっては研修方法を変えることも、検討するようにしてください。
まとめ
コーチングスキルを習得することは、さまざまなビジネスシーンで大変役立ちます。
コーチングすることを目的とせず、傾聴と問いかけを繰り返しながら、部下の置かれている状況を適確に把握し、部下自身に答えを見つけさせることで、部下だけでなく自分自身も成長していくことが可能です。
課題解決のために、コーチングを活用していきましょう。
独学では難しい、もっと体系的に学びたいという場合は、先ほども触れた通りコーチングにはさまざまな種類がありますから、自分がどのようなコーチングを実施したいのかを見極め、ぜひ研修やセミナーに参加してみてください。