リーダーシップを発揮する社員の具体的な行動8選
オンボーディングとは?
「オンボーディング」という人材に関する用語は、まだ一般的には定着していないかもしれません。しかし、オンボーディングはこれからの時代の人材育成において大切な鍵になるため、人材に関わるポジションにいる方なら詳しく知っておきましょう。
オンボーディングとは、ひと言でいえば人材の教育・育成の手法です。オンボーディングの目的は、組織に新たに入った人材に対し、適切な対応と教育を施すことで、できるだけ早く戦力となってもらうことと、しっかり組織に馴染んでもらうことです。
オンボーディングは飛行機などに搭乗する「on-board」を由来とする造語で、英語で表記すると「on-boarding」になります。飛行機をよく使う方なら、空港ロビーなどでも目にしたことがあるはずです。つまり、飛行機に乗るための準備プロセスを、企業に新しく「搭乗」するメンバーのそれに見立てたわけです。
一般的に人材教育、特に新しいスタッフへの教育といえば、入社から一定期間に集中して実施するというイメージがあります。しかし、オンボーディングは入社前からのコミュニケーションに始まり、入社から一定期間を超えても継続的に教育、あるいはサポートを続けていくことです。
なぜオンボーディングが必要か?
新人教育に関しては、以前から色々な方法で取り組みが行われてきました。その中でなぜ今、オンボーディングが注目されているのでしょうか。
その理由は大きく分けて3つあります。
1つ目は人材の定着です。これは従来の終身雇用から、転職が当たり前となりつつある雇用形態、就業形態へと変わりつつあるというのがその理由になります。ひと世代前の日本での雇用は、終身雇用が当たり前で、中途採用はイレギュラーな存在でした。しかし、今日では自分のスキルを活かすための転職は当たり前となり、中途採用の戦力化は非常に大きな課題となっています。
2つ目は採用コストの削減です。昨今の求人費用は非常に高いコストがかかります。一旦採用した人材が簡単に離職してしまっては、高価な求人コストが無駄になる、という考え方です。
3つ目は組織内の結束力強化です。例えば、以前から日本の企業文化として親しまれてきた「飲み会」も、オンボーディングの手法のひとつといえます。この目的は教育という堅苦しい枠を超えたコミュニケーションを取ることで、組織内の結束を促すことです。
しかし、近年飲み会は減ってきています。飲み会とは違う形で組織内の結束を促す必要が出てきました。これが、オンボーディングが必要となる理由のひとつです。
それぞれについて詳しく説明していきましょう。
人材の定着
近年、終身雇用から中途採用が当たり前という雇用形態に変化してきました。それにより、中途入社の教育がなおざりになっていた企業も、改めて中途入社組の教育に対しシステマティックに対応せざるを得なくなってきました。
さらに、転職が当たり前という発想の人材が入社してきた場合、その人はまたすぐに離職してしまう可能性が高いともいえます。
このような雇用形態の中で、新人を含めた新しい人材の定着を促進するため、業務をより快適に進められるような教育の実施が必要になってきました。また、自社のビジョンやミッションなどをしっかり伝え、企業文化、企業風土に馴染み、定着してもらうというのもオンボーディングの目的のひとつです。
採用コストの削減
採用コストは企業にとって非常に大きな負担です。何しろ、採用コストの平均額は、一人当たり約60万円といわれています。業種によっては100万円を超える場合もあるほどです。それだけのコストをかけたのにも関わらず、せっかく入社したメンバーがすぐに退職してしまったら、その度に同じ額の採用コストを改めて払わなければなりません。
そこで、オンボーディングで組織に馴染み、仕事しやすい環境をつくることで退職率を下げることができるのであれば、大きなコストカットとなります。
組織内の結束力強化
オンボーディングによる影響は、新しいメンバーだけにとどまりません。新しいメンバーを迎える部署にもともといる人材にも、影響を与えます。
新しいメンバーともともといたメンバーがすぐに馴染んだほうが、円滑に業務を進められ、人材が増えることによる恩恵を得られるのです。それは、組織全体にとっての大きな価値となり、組織内の結束力がより強化されるでしょう。
さらに昨今、企業のハスラメントやコンプライアンスが問題視されてきています。新たに組織に入ってくる人材に対して、間違いが起こらないように教育しなければならないという側面もあるのです。
オンボーディングのプロセス
オンボーディングは、どのようなプロセスを経て実施すればよいのでしょうか。ここでは6つのステップでそのプロセスを解説します。
入社前からの積極的なコミュニケーション
オンボーディングは、新しいメンバーが入社する前からスタートするのが理想的です。実際、入社前に人事ときちんとコミュニケーションがとれているメンバーは、そうでないメンバーよりも高いパフォーマンスを発揮するというデータもあります。可能な限り入社前からのやりとりを充実させることが理想です。
受け入れ体制の構築
仮に入社前にコミュニケーションがとれなかったとしても、入社初日に向けてメンバーを受け入れる準備をしっかりとしておきましょう。社内SNSなどのITツールを事前に用意し、それを活用してコミュニケーションを図るという方法もあります。
初日の準備をしっかりすることで、迎えたメンバーのパフォーマンスが数10%上がったというデータが出ているので、活用しない手はありません。
理想をいえばこの受け入れ体制も、一人ひとりの役割や特性を考慮して柔軟に変化させるとよいでしょう。そこまでできないという場合は、マニュアル的な方法は避けてください。
どれだけその新しいメンバーが組織にとって必要なのか、どれだけ心から歓迎しているか、そして安心して働ける環境を用意した、というような「想い」までを伝えられるような姿勢を伝えることが重要です。
新人と組織間の期待値をすり合わせる
新しいメンバーを選ぶ際の面談などでその人が組織に何を求めているのかを把握できていない場合、改めてそれを入社後に確認しておきましょう。組織側が新しいメンバーに何を求めているかは、すでに明確になっているはずですから、お互いの求めるもの、つまり期待値が合致しているかをまず確認する必要があります。
もちろん完璧に一致することは難しいと思いますが、その期待値をどの程度満たすことができるのか、お互いの期待値を満たせるようにするためには何をすればいいかをすり合わせておきましょう。
育成スケジュール・プランの作成
マニュアル通りの教育だけでは個人の資質を伸ばすことができませんし、新しいスタッフにとっても退屈な教育になってしまうかもしれません。
オンボーディングの価値を考えれば、できる限りその人にあった育成スケジュールで、何を学んでもらうかオーダーメイド的に決めていくのが理想的です。
オンボーディングの実施
入社前の準備と期待値のすり合わせ、そしてプランを済ませたら、いよいよオンボーディングの実施です。OJT、あるいはOff-JTを織り交ぜながら、常に新しいメンバーからのフィードバックや質問に対応できるように用意しておきましょう。
<関連記事>「OJT」と「Off-JT」それぞれの特徴を活かし効果的に運用するには?
理想はオーダーメイドなトレーニングプランですが、基本的なコンテンツはある程度標準化しておいたほうが効率的です。さらに、学ぶべき内容をいかに確実に身につけてもらうかを、一定のゴールを設定して数値化する手法で成果を可視化すれば、効率の良い学びが期待できます。
もちろんオンボーディングの目的を考えれば、メンバーの学びと同様に組織とのコミュニケーションや親和性を高めることも織り交ぜなければいけません。事務的にタスクをこなしていくだけでは、本当の意味でのコミュニケーションはできないのです。タスクとして業務を伝える以上に、人としてのつながりや企業として、組織としての使命を知り、身につけてもらえているかもオンボーディング実施のポイントとなります。
振り返りとプランの見直し
オンボーディングの実施は、事前に立てたプランを進めていけばよいというわけではありません。可能な限り重要なポイントは繰り返して学習、実践して確実に身につけられるよう、メンバーのフィードバックなどを受けながら進めてください。
その際、何かうまくいかないことがあれば、プランの見直しも必要になるかもしれません。事前に用意した一本道のプランを進めるだけではなく、必要に応じて柔軟な対応をすることがオンボーディングの大切なポイントです。
なぜなら、オンボーディングを完遂することが目的ではなく、新しいメンバーが組織の中で十分な能力を発揮することが目的です。その目的のために、どのようなプログラムやタスクを進めるのがよいのかを振り返り、再プランすることこそが、成否の鍵を握っています。
どんな取り組み?オンボーディング事例3選
富士通株式会社の事例
「IT企業からデジタルトランスフォーメーション企業への転身を目指す」という富士通株式会社では、クラウドの普及など新しい時代の波に乗るため、社員の意識改革の必要性を感じていました。
そのためにはまず、人事制度の改革に踏み込み、制度のフルモデルチェンジともいえる取り組みを行なっています。
しかし、その改革に必要な人材、特にキャリア人材の迎え入れに関して十分なノウハウがなく、十分に力が発揮できないという問題が派生していました。
そこで取り入れたのがオンボーディングです。具体的には入社後90日間のフォロー体制を確立し、一人ひとりにアドバイザーをつけるという取り組みを実施しました。入社後すぐにパフォーマンスを発揮できるようにするとともに、早期退職という最悪のケースを回避できるような施策が功を奏しています。
<参考記事>:https://fujitsu.recruiting.jp.fujitsu.com/career/special/hiramatsu/
GMOペパボ株式会社の事例
数々のインターネットサービスを提供するGMOペパボ株式会社では、2018年4月にエンジニア向けのオンボーディングプログラムである「ペパボカクテル」を導入しました。
このプログラムは3ヶ月間にわたり、「やっていきたいシート」という自己実現したい姿を表明するシートを用意し、メンターとの1対1のコミュニケーションやスケジュールランチなどを実施します。さらに、Slackで専門のチャンネルを用意し、業務外のサポートまで行うことで、手厚い育成体制が実現しました。
<参考記事>https://seleck.cc/1255
LINE株式会社の事例
LINE株式会社では、現在年間300名もの社員が増えているため、中途入社の社員をいかに社内に馴染ませるかが大きな課題となっています。
そのため、アンケートを通じて従業員の実態を調査するとともに、人間関係の診断サーベイを導入したのです。これにより、チームとしての変化を認識・改善していく取り組みを、社をあげて実施できる環境に変化させました。
その一環としてオンボーディングを取り入れ、管理だけではなく「正しい方向性に導く」マネジメントを目標に、体制の強化に尽力しています。
なかでも、「人間関係サーベイ」は健康診断と同じイメージで捉えているほど重視され、組織内の人間関係の円滑化に一役買っているということです。
<参考記事>https://seleck.cc/1239
まとめ
働き方が以前とは大きく形を変えているなかで、中途採用の人材を活用すること、そして新しい組織に迅速に馴染んでもらうことは、企業の価値を高める重要なファクターとなっています。
そのような状況のなかでオンボーディングが重視されるのは当然で、その手法が今後の組織の未来を左右するといっても差し支えないでしょう。
今後さらに注目を浴びるオンボーディングに対し、今からぜひ取り組みを始め、人材の活用と円滑な組織運営に役立ててみてはいかがでしょうか。