リーダーシップを発揮する社員の具体的な行動8選
多くの研修担当者の悩みのタネ「研修効果の定着」
研修を企画する担当者としては、研修の効果が定着しないという悩みを抱えている方も多いはずです。では実際に、研修はどのくらいの効果を出しているのでしょうか。そして効果が出ているかどうかをどのように知ればよいのでしょうか。
研修で学んだ内容を実践できている人の割合は?
少し前のアメリカのデータになりますが、2004年のSaks, A.M., & Haccoun, R.発表による研修の効果測定データとしてこのようなデータが公開されています。
【出典】新刊「研修開発入門 ー 研修転移の理論と実践」のお知らせ!
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9092
このグラフによると、研修直後は約半数の参加者が研修内容を実践できているものの、1年後には驚くことに9%の参加者しか実践できていないことがわかります。つまり研修を実施しても、9割の参加者は1年後には役に立てていないということになるのです。
このことからも、研修の内容自体も大切ですが、研修で学んだことを定着させることの重要性がよくわかるはずです。
少なくとも研修直後には半数近くの人ができていたわけですから、研修自体に価値がないわけでありません。問題は持続できないことにあるのです。
そもそも研修効果を計測できていないケースも
しかし上記のようなデータがあるのは、まだましな状況であるともいえます。ほとんどの研修はその後の経過をデータとして取ることもなく、検証しないで終わってしまうためです。
例えば新商品の情報を共有するためのセールス研修などであれば定着しやすいかもしれませんが、汎用的なセールスのメソッドを学ぶ研修などは定着しにくいものです。その理由は一体何なのでしょうか。
研修効果が定着しない4つの大きな原因
まず研修効果が定着しないという問題には、どのような原因があるのかを見ていきましょう。その大きな原因を4つピックアップして紹介していきます。
受講者に研修の目的が伝わっていない・納得していない
研修効果が定着しない目的の根本がこれです。つまり、この研修をなぜ受けなければならなかったかその目的が理解できない、あるいは納得していない、というものです。研修自体の価値付けがされていなければ、そもそも研修内容自体が身につきませんし、仮に理解できたところでそれをどこでどう使うのかがわかりません。
研修を企画した側としてはおそらく何らかの理由があって実施したはずですが、その理由や目的の部分を明確に伝えなければ、学ぼうというモチベーションは上がらず実践もできません。
ましてや、理由もないのに研修を「受けさせられた」と捉えられてしまっては、効果が定着するどころかかえって反感を買ったり、その後の研修に対してのイメージが悪くなってしまったりする可能性すらあります。
研修で得たことを実践する機会がない・実践できない
研修の目的がしっかり伝わっていたとしても、効果が定着しない可能性はあります。
例えば学んだ内容が、自分の業務の中で活用する機会がないというケースです。このような事態がなぜ起こるかといえば、管理者サイドと現場の間に業務に関する認識の齟齬があるからでしょう。管理者側としては自社のビジネスに使えると思っていたものが、実際に使えないノウハウやテクニックだったということは珍しくありません。理想と現実の違いは、どこの世界にも存在します。
あるいは理解不足により実戦で使えないというケースもあります。この場合は研修の効果をきちんと測定していなかったため、研修の目的自体は間違っていなかったものの、実践できないという意味では非常にもったいないですよね。
研修で得たことを実践させてもらえない
参加者として研修の理解がしっかりされていたとしても、職場がそれを実践できない環境であれば定着は難しくなります。これは多くの場合、上司や現場の理解不足が原因となっています。組織のトップが必要と判断した研修内容を現場で動くメンバーが理解しても、彼らの管理者が理解できていない場合、実践はできません。
つまり研修自体も大切ですが、組織としてそれをどう実践していくかが大切なのです。それは現場スタッフの研修の重要性とともに、管理者に対しても研修内容を実践できるような管理手法をきちんと伝えていくことの重要性を意味します。
実践しても評価につながらない
最後に注意したいのが、研修の成果を参加者が発揮しやすい環境をつくることです。これはすなわち、組織としての姿勢でもあり、研修で得たノウハウを活かすことに対してきちんと評価するという風土づくりを意味します。
評価する風土づくりを実施しないと参加者はいくら研修結果を活かしたところで、結局自分は何の評価も得られないのではないかと感じてしまいます。そうなれば当然研修の価値は下がります。ひどい場合には、新しいことへのチャレンジに対し、現場に合わないからといって評価を下げてしまうこともありますが、そのようなことは絶対に避けなければなりません。
研修効果を定着させるために必要なことは?
「研修効果に影響を与える因子」としてアメリカのR.ブリンカーホフは「4:2:4の法則」を提唱しています。
この数値は、
- 研修前のマインド…4割
- 研修プログラムそのもの…2割
- 研修後の学習…4割
となっていて、研修自体よりもその前後の重要性を説いています。この数字を参考にしながら、研修効果を定着させるための重要ポイントを見ていきましょう。
研修意図の正しい理解を促進させる
前述のように研修の目的、そして意図をまず徹底し、それを参加者に正確に伝えておく必要があります。さらにこれは参加者だけの問題ではなく組織全体、つまり上司や現場全てに伝達しなければなりません。
その結果として研修の成果を発揮できる環境が出来上がり、参加者も結果が出しやすくなるのです。
研修直後にアクションを促す
研修に関してもまた「PDCA」サイクルが有効な手立てとなります。研修直後からどのようなアクションを取ったのか、その結果どうなったのか、より改善するためには何ができるのか。このような研修PDCAサイクルを1〜2ヶ月、あるいはもっと短いサイクルで実施し、研修内容を参加者自らが思考しながら行動していくことで、内容を本当の意味で自らのものとし、定着させることができるのです。
実践できているか振り返りを行う
研修というと一過性のイベントに捉えてしまいがちですが、研修の振り返りができる機会を研修全体のプログラムの一環として実施してみましょう。イベントとして終わらせてしまうと、研修に関わる全てのリソースの無駄遣いになってしまいます。
実践的な振り返りだけではなく、上司との関係性をより深めることや、新しいチャレンジに立ち向かう価値を体験する。あるいは実践の中で見えてきた新しい課題に取り組むなど、研修を契機としてさまざまな付加価値を産み出すような環境づくりがポイントとなります。
研修内容の実践を評価と紐付ける
研修に対する参加者のモチベーションは、研修で成果を出すことに対してどのように評価してもらえるかによって増減します。いくら研修を活かして結果を出したところで、それが上司や経営者に評価されなければ意味がないと感じてしまうからです。
評価の中で一番わかりやすいのが人事評価でしょう。例えば研修によってどのくらい成果を出したか、ゴールを設定しその達成度などを可視化し、その数値から明確な評価をすることで、研修成果を定着させられます。
eラーニングやオンライン研修で研修効果を定着させるには?
最近では、従来型の会場に人を集めての研修だけでなく、ネットを使ってのオンライン研修やeラーニングで学ぶような形態も増えてきました。このようなITを使った研修をより効果的に実施するためにはいくつかの注意点があります。
ビジネスチャットや掲示板を使った全員参加型のフォローアップ
オンラインやeラーニングでは対面で講師や他の参加者とコミュニケーションをとる機会がなく、その分集中力に欠けたり、モチベーションをキープできなかったりという問題があります。しかし、例えばビジネスチャットや専用の掲示板などを活用することで、オンライン上のコミュニケーションを取ることは可能です。
ITツールを使うこのような新しいコミュニケーションツールを活用すれば、従来にはなかったより密な研修を実施できることも確かになっています。
1on1ミーティングの実施などコミュニケーション回数を増やす
Face to Faceの関係が以前よりも薄くなりがちな近年、特に新入社員研修においては、新人同士、あるいは他のスタッフとの関係性も希薄になりがちです。
しかし、オンライン研修を契機にITを導入した1on1ミーティングなどを実施することで、そのような関係性の問題も解決可能になります。なにより新入社員の世代はデジタルネイティブともいえる世代で、デジタルツールを使ったコミュニケーションのほうが上手にできることすらあるのです。
研修効果の定着のために実施した施策事例
実際に研修の定着のために組織はどのような施策を実施し、どのような結果を出しているのでしょうか。実際に実施されている施策の成功事例を紹介していきましょう。
メールで定期的にアプローチ
ある生活用品関連企業が実施した施策をご紹介しましょう。こちらの会社では入社4~7年目の中堅社員のための階層別研修を行っていましたが、以前から研修の定着が課題となっているという認識がありました。
そこで、研修の事前準備段階から、受講者やその上司に対してメールで事前の案内や、研修内容を現場で活かすポイントの紹介などを行うようにしたのです。また、研修直後もメールでフォローアップし、さらに1ヶ月後、2ヶ月後も今後の取り組みに対するレビューを依頼するなど、ロングスパンでメールフォローを行いました。
このように、参加者だけでなく上司を巻き込んで研修効果を上げるための仕組みづくりを行い、その結果研修成果の定着はもちろん、上司をも含めた育成が可能になったのです。
Webでのフォローアップ研修の実施事例
ある人事コンサルティング企業では「研修の費用対効果を明らかにしたい」ということで、研修前、研修中、研修後のフォローアップを実施しました。研修前には上司への働きかけを実施し、どんな効果を望むのかをヒアリングされたようです。研修中はWebサービスを使って対話型研修を実施し、より研修の定着を後押し。研修後にはウェブ形式でフォローアップ研修を実施し、効果的に定着を実現しました。
まとめ
研修と聞くとみんなが集まってワイワイ学ぶという、イベントのようなイメージを持たれがちです。ですが、そのイメージを払拭し確実に効果が出せる研修へと進化させるためには、研修の前後を今まで以上に丁寧に扱ってみましょう。研修の意図を明確にし、事前に伝達、研修後はしっかりとフォローアップを行う。さらには、意図通りに成果が定着しているかまでチェックしつつ、より改善していくことが研修の成功への近道になります。
受けさせる立場の自己満足に終わるような研修にしないこと。そして、そのためにも全体をシステム化して組織と参加者にベネフィットを与えられるように組み立てることが、これからの時代に求められる成果の上がる研修といえるでしょう。